2019年12月3日火曜日

12月3日 掲載されました「【兵庫】速度、出動件数ともに全国トップクラスを誇るドクターヘリ 小林誠人・但馬救命救急センター長に聞く Vol.1」

会員限定のサイトm3.comに当センター,小林センター長のインタビュー記事が掲載されました.

会員の方は https://www.m3.com/news/kisokoza/699057?prefecture_id=28&portalId=mailmag&mmp=LZ191204&mc.l=537104152 からご一読下さい.

非会員の方にはこんな内容の記事ということで.

 公立豊岡病院が運営する但馬救命救急センター。2010年に開設されるやいなやドクターヘリが全国トップの出動数847件を記録し、「日本一忙しいドクターヘリ」として連日メディアに取り上げられるようになった。その勢いはとどまることを知らず、2018年の出動件数は2105件。その立役者である救命救急センター長・小林誠人氏は、2005年のJR福知山線脱線事故で陣頭指揮をとり、2011年の東日本大震災、2013年福知山花火大会露店爆発事故でも活躍したベテラン救命医だ。これまでの豊富な経験によって構築された、同センターのドクターヘリシステムについて話を聞いた。(2019年6月18日インタビュー、計2回連載の1回目)

――但馬救命救急センターのドクターヘリの管轄エリアについて教えてください。
 当センターは、北近畿地方唯一の救命救急センターです。ドクターヘリが管轄する三次医療圏は、鳥取東部から兵庫北部、そして京都北部までの半径80㎞、約70万人を対象にしています。一般的に推奨されるドクターヘリの運航範囲は拠点病院から半径50㎞圏内ですから、比較すると広大な地域エリアを受け持っていることが分かるでしょう。
 救急車なら移動にかなりの時間を要しますが、ドクターヘリなら時速200㎞で現場へ急行できます。豊岡のような地方都市にとってドクターヘリは非常に有効な医療手段なのです。

――どのような運営体制をとっていますか? 
 救命救急において、もっとも意識しなければいけないことはスピードです。時間がたてばたつほど患者の救命率が低下しますから、初期治療の質を上げるにはドクターヘリの迅速な出動と、現場での滞在時間の短縮化、この二つが求められます。
 まず一つ目の迅速な出動に関して、当センターでは消防との密な連携を徹底しています。開設時から「必要なければ途中でキャンセルして構わない。必要と判断すれば119番覚知と同時にためらわず要請を」と消防指令課員に伝えています。一分一秒が生死を分ける救命の現場では、出動をちゅうちょするほんの少しの余裕も許されないのです。
 そのために「キーワード方式」を取り入れ、119番通報で「意識がない」「けいれんしている」「呼吸していない」「手足が急に動かなくなった」などの言葉が出た場合はすぐさま要請する体制をとっています。最近は、キーワードが出なくても消防指令課員が機転を利かせて出動要請してくれる「指令課員判断」が三十数%にまで増えました。これにより119番通報からドクターヘリを要請するまでにかかる時間は平均5分。救急隊員が現場に行ってから要請する事例を省けば3分もかかりません。

――全国平均の十数分に比べると、”日本最速”と言える迅速な対応です。消防との密な連携で、そこまでスピードを上げることが可能なのでしょうか?
 緊急時に連携をとるだけでは不十分です。当センターでは普段から但馬地域の救命救急を一挙に引き受け、救急車の要請には24時間、365日「絶対応需」の姿勢を貫いてきました。その結果、消防から強い信頼を得ています。
 また、管轄の消防本部と全事例について入念に検証を重ねており、但馬地域ではメディカルコントロール協議会で2カ月に一度検証会議を実施。また、南但消防本部・美方広域消防本部・豊岡市消防本部の但馬三消防だけではなく、ドクターヘリ運航範囲である但馬地域外の7消防本部でも、それぞれ半年に一度ずつドクターヘリ、ドクターカーの症例検討会を開き検証を行っています。回を重ねることでドクターヘリ、ドクターカーの出動の有無を比較した非常に正確なデータを構築でき、それを基に改善を繰り返しています。おかげで出動時間の短縮化だけでなく但馬三消防のアンダートリアージ率は0%。開設以来9年間、地道に検証を重ねてきた努力のたまものです。

――二つ目の現場滞在時間の短縮化についてはいかがですか? 
 時間短縮を図る方法はさまざまありますが、やはり一番は質の高い医療チームを現場に送りだすことでしょう。当センターは質を維持するため、ドクターカー、ドクターヘリに乗れる基準を明確に定めています。後期研修医の場合、初年度はセンター内で勤務し、救急医として基礎的な知識と技術を身に付けます。二年目以降は成人の救急診療、ICU管理に加え、小児の救急集中治療を研修した後に、見習いとして指導医についてドクターカーの同乗研修が始まります。そして一人でドクターカーに乗車できるようになったら、次はドクターヘリの見習い、そして独り立ち……と個々の能力に応じて順々にステップアップしていきます。

――そういった運営体制について、他の病院や行政から多くの視察があると伺いました。
 はい、”日本一の出動数”ということが注目され、さまざまな方がいらっしゃいます。ただ、私たちにとって出動数は大したことではありません。そもそも地域によって状況が違いますから、比較することに意味があるとも思えません。
 それより着目すべきことは、患者が適正な救急医療を受けているかどうか。アンダートリアージを無くすることの方がはるかに大切ではないでしょうか。当地域では、消防関係者も含め救命の全メンバーが「地域の住民の救命、および後遺症軽減に向けてともに努力しよう」の一心で日々医療に向き合っています。ドクターヘリの出動数は、あくまでその結果に過ぎないと思っています。

【取材・文=竹田亮子】 Vol.2に続く