2011年6月8日水曜日

6月8日 観察力

初療に搬入される患者さんは1人たりとも同じ状態の方はおられません.本日も比較的珍しい「膵嚢胞(おそらく)破裂」による腹膜炎の患者さんが来られました.手術か?保存的加療か?腹部症状,血液データなどから総合的に判断して治療方針を決定します.ホント,いつもいつも悩ましいです.これも日々勉強ってことでしょうね.


本日のドクターヘリは小林,前山先生,清水看護師が担当です.

☆ドクターヘリ1件目 脳卒中

回診中に一斉PHSが鳴ります.小林,前山先生は病院3階の救命救急センターICUから階段でヘリポートまでダッシュ!転けないようにゆっくり急ぎます(←んっ?).

覚知同時要請.情報は「突然の右半身麻痺,構音障害.」です.ヘリは一直線にランデブーポイントへ.

冬場は車と雪で埋まるリフト乗り場.

救急車到着までの作戦会議.

ほどなく救急車が到着します.医療スタッフは救急車内へ乗り込み診療開始.CPSS 3項目陽性.気道,呼吸,循環はいけてます.発症時間もはっきりしており,血栓溶解療法が可能かもしれません.ならばTECCMCへ搬送しましょうか.と患者さんの居住地を調べると,「あら,○○市だわ.」治療後のリハビリ,通院などの一貫性を考えると,地元病院への搬送が最善でしょう.幸いにもその地には脳卒中専門の病院もあります.救急車なら3時間はかかるでしょうが,ヘリなら20分程度.治療開始には十分間に合います.

脳梗塞なら1分1秒が惜しい.早速,受入要請を携帯電話で行います.「○○歳の患者さん,症状は・・・.」すると,「ハイ,どうぞ.」と快く応需していただけました.とその直後,先方の先生が「あの〜,実は私小林先生の大学の後輩でして・・・」 いや〜,懐かしい!というよりは心強い!!持つべきは同窓生.人のつながりはありがたい.

さあ,最速で搬送,後遺症軽減を目指しましょう!指定されたランデブーポイントに着陸後は救急車に乗せ替え搬送です.前山先生が同乗です.

☆ドクターヘリ 2件目 意識障害

1件目の患者さんを救急車に乗せ替えた瞬間に要請の電話が鳴ります.「意識障害.場所は・・・」さあ,出動!

「前山先生,患者さんを搬送後は自力でTECCMCまで戻ってきて〜!ゴメンm(_ _)m」と言い残し,小林,清水看護師は現場に飛びます.前山先生の置き去り率は現在1位です.患者さん最優先なので,許してください.

こちらも覚知同時要請.飛行時間はそこそこかかりますが,同時要請なのでランデブーポイント着陸と同時に救急車も滑り込んできます.


救急車内で速やかに診療開始.呼吸,循環はOK,意識は・・・反応鈍いなあ,でも麻痺無し,CPSS 0
項目,体温問題なし,低血糖なし.頭蓋内病変はなさそうです.輸液を確保し,直近の病院を選定,医療スタッフ同乗で搬送です.

病院到着時,意識レベルも改善,ちょっと元気になられました.輸液が良かったのかな?

☆ドクターヘリ3件目 頭部外傷(施設間搬送)

他院からTECCMCへの施設間搬送です.外傷は外傷専門医のいるTECCMCへ.

☆ドクターヘリ4件目 交通外傷

3件目の患者さんを搬送し,TECCMCのヘリポートへ着陸寸前に4件目要請.患者さんを引き継ぐためのストレッチャーも来ています.そして,前山先生も戻ってきています.ホットローディングで患者さんを引き継ぎ,JA822Hドクターヘリは再び大空へ舞い上がります.

「高速道路の事故.閉じ込めあり.」との無線情報です.急ぎましょう.機内では輸液などの準備を行います.途中,消防無線で救助完了,ランデブーポイントへ向かう旨,連絡が入ります.

ヘリは指定のランデブーポイントへ.数分後,救急車も到着,外傷初期診療が開始されます.幸いにもABCDはOK.FAST negative.しかし,高エネルギー外傷です.本来であれば救命救急センターへの搬送ですが,生活圏,医療圏を考え,外傷対応可能な近隣の拠点病院へヘリ搬送です.

いつも快く応需いただきありがとうございます.大変助かっております.

☆ドクターヘリ5件目 転倒(頭部外傷,腎損傷)

日勤帯も終了,の間際に要請です.覚知同時要請.「自転車での転倒.意識悪く,イビキをかいている.」まさに同時要請キーワード.これが当ドクターヘリの最大の強み.

10分もかからずギャラリーの多いランデブーポイントへ着陸,ほどなく救急車もやってきます.


救急車内で外傷初期診療開始.気道開通,呼吸問題なし,循環良し,意識も清明です.体表面の外傷は頬部の挫傷だけ,と思いきや「左側胸部にちょっと赤く打撲痕があります.現場では軽度圧痛を訴えておられました.」と救命士さんからの報告.FAST negativeだし,今は圧痛も軽快しています.搬送先は,地元の病院?外傷は厳しいなあ,頭部外傷があれば転医でTECCMCへ来るし・・・頭部外傷と救命士さんの観察結果から胸部外傷も疑って,TECCMCへ搬送とします.

搬送中もバイタルは安定.これならばdirect trauma CTで初療時間の短縮をはかりましょう.

ヘリポート着陸,そしてCT室へ.岡先生へ引き継ぎ,我々ヘリスタッフは夕礼からカルテ書きへ.すると岡先生からPHSへ連絡が入ってきます.「左腎損傷.IIIa型.extravasationもはっきりあります!」

救命士さんの観察力,ドンピシャリ!頭部,顔面に意識がいきがちな症例でしたが,救命士さんの観察結果から体幹部損傷も念頭におくことが出来ました.同時要請といい,観察力といい,非常にすばらしい消防力でまた1つ救命例が生まれました.

夕礼もそこそこに,緊急血管造影でTAE.いつのもごとく,IDCを用いたcoilingで止血は完璧です.病院前から病院内まで上手く輪が連鎖しました.


最後のヘリ症例の治療を岡先生と終え,小林は気分良く夜勤に入ります.本日も沢山の方々にお世話になりました.ありがとうございました.また大変お疲れ様でした.