2011年4月10日日曜日

4月10日 ERL

午前中の初療は非常に穏やかな時間が流れていました.ドクターヘリ要請もなし.救急車の搬入件数に比例してヘリ要請も増えるので,世間が平和な証拠です.


しかし,その静寂を破るようにドクターヘリ出動の一斉PHSが鳴ります.本日のドクターヘリ担当は小林,幸部先生,林田看護師.


☆ドクターヘリ1件目 トラクター転落


救急覚知同時要請です.「橋からトラクターが転落.傷病者は年齢,性別不詳.」との内容です.約10分でドクターヘリは消防支援隊の協力で現場直近に着陸,最速の医療介入開始の場を提供していただきます.



患者さんを救助,収容した救急車がすぐにやってきます.詳細はやはり不明ですが,トラクターごと用水路に転落したことは間違いないようです.いつ転落したかも不明.

提供していただいた現場写真.受傷形態がこれで想像出来ました.

救急車内で外傷初期診療開始.FAST negativeですが,橈骨動脈は触知不可.用水路にはまっていたこともあり低体温状態.気道,呼吸は保たれており,加圧バッグで初期輸液しつつ機内収容します.ドクターヘリの目的は早期に医師を現場投入することによる早期医療介入の実現と搬送時間の短縮・根治的治療開始までの時間短縮です.

機内で輸液が入っても循環は改善しません.体温も低く不穏状態も強くなります.やはり出血性ショックが改善しない!輸液に反応しない出血性ショックは気管挿管の絶対適応.飛行中の機内でRSI.Airwayscopeを使用しシートベルト装着下でも安全に気管挿管を実施します.

TECCMCのヘリポートへ到着.「出血性ショック.緊急輸血の準備.骨盤骨折が原因の可能性も高いのでIABOの準備.」日勤責任者の岡本先生へ伝えます.

初療室搬入.頸動脈がかろうじて触知出来る状態.FASTで腹腔内に出血!?現場ではなかったのに.レントゲンが出来ます.open book型の不安定型骨盤骨折!IABOを挿入し,動脈性の出血を制御しつつ創外固定とパッキングの準備.

しかし,腹部が膨隆しFASTで腹腔内出血が増えてきます.一刻の猶予もありません.「ERL!同時に骨盤の創外固定!」 小林,幸部先生,松井先生,長嶺先生,整形外科の先生で執刀.腹腔内には大量の出血があります.しかし,骨盤部のパッキング効果を考え小骨盤腔はまだ開放しません.「ここが出血源,IMAを根部で結紮止血.」動脈性の出血は制御します.しかし,後腹膜の破綻部から骨折部が腹腔内と通じており,骨折部,後腹膜からの出血がじわじわ続きます.「ガーゼパッキングし,創外固定.」術野に一緒に入っていただいている整形外科の先生と松井先生で創外固定をたてます.これで骨盤骨折の安定化をはかり,そして再度腹腔内の再止血とパッキング.しかし,臨床的な凝固障害は遷延します.1:1:1 輸血でも循環,止血機能,体温が立ちあがりません・・・

外傷評価では,ドクターヘリ現着時RTS 4.45(予測生存率50%以下,重症外傷),ISS 41,TRISS Ps
0.114(外傷の重症度から算出された予測生存率は11%)と最重症の患者さんでした.

的確なヘリ要請で現場あるいは搬送中の心停止はドクターヘリにてなんとか回避出来ました.しかし,受傷から時間が経っている事が想像され,受傷から1時間以内の根治的治療がかないませんでした.

病院前救急医療システム,院内システム(緊急輸血体制,救急・外傷外科医の存在,初療開胸・開腹体制,看護体制など)を整備,構築しても受傷からの時間を止めることは出来ません.くやしい思いをしたことしか記憶に残らないものです.

☆ドクターヘリ2件目 胸痛発作

ERLの最中に要請です.幸部先生が手をおろしヘリに向かいます.「胸痛発作.」との情報.現場で診察,12誘導心電図,心エコーでは問題なさそう.初療もごった返している状況でもあり,直近の地元の病院が快く応需してくださり,救急車同乗で搬送いたしました.

現場からの医療トリアージが機能した事案です.ご協力いただきました皆様,ありがとうございます.



夜間はICU担当の松井先生が頑張ってくれます.この4月から3名の救急医が増えました.各勤務帯に1名の救急医の増員は非常に心強く,スタッフ全員に心と体の余裕を与えてくれます.新しい先生方を加え,より一層,救急医療に邁進したいと思います.