2011年3月30日水曜日

3月30日 朝から

本日のヘリ番は小林,三浦先生,濱看護師です.機体の整備が完了し,8時に機体は格納庫から出てきます.資機材は機内に積んでおけるので,充電が必要な機材の積み込みと毎日の機内整備.そして8時15分から朝礼.これがヘリクルーの日課です.いってみれば8時前には概ねスタンバイ完了な状態となっています.

☆ドクターヘリ1件目と2件目 離陸後キャンセル

朝礼終了と同時に本日1件目の要請です.覚知同時要請.晴天の空へヘリは離陸します.5分後,「硬直あり.キャンセル.」 

1件目から帰投し,朝のカンファレンスが始まった直後に2件目の要請です.もちろん覚知同時要請.「川に転落.」との情報です.ドクターヘリは現場直近に着陸,医療スタッフは現場まで徒歩で向かいます.「蘇生適応なし.キャンセル.」 どうやら昨晩から行方不明だったようです.

2事案ともに残念な結果ではありますが,わずかな可能を期待してこのような要請が最善であると考えます.キャンセルはいつでも出来ます.救急隊現着後要請で,失った時間と後悔は取り戻せません.それをしっかりと認識し,医師の現場派遣を最速で要請している,それがこの地域の消防本部です.

☆ドクターヘリ3件目 小児転落外傷

午前中3件目の要請です.覚知同時要請.「小児,屋根からの墜落.」といった情報です.年齢などから機内で必要物品を用意します.

10分後,ランデブーポイントへ着陸.そこからは支援車に乗って山間の道を現場に向かいます.


数分後,現場到着.ちょど患者さんは車内に収容されたところです.外傷初期診療開始.幸い,ABCDと問題なさそうですが,腹部に圧痛があります.救急車はすでにランデブーポイントに向け出発済み.高エネルギー外傷,腹部外傷を疑い,TECCMCへヘリ搬送です.

救急車での陸送であれば,現場からTECCMCまで40〜50分かかるでしょう.そう考えれば医療介入までの短縮時間は40〜50分.ドクターヘリの効果ははかりしれません.

☆ドクターヘリ4件目 頭部外傷

午前中4件目の要請です.救急隊現着後の要請です.119番通報時にはキーワードに引っかかるような内容もなく,重症外傷を疑う内容でもなかったようです.ところが,救急隊現着し初期評価,全身観察を行うと・・・呂律が回らない,よだれを垂らしているなどの異常所見があるではないですか!救急隊現着後要請基準に合致,現場の救急隊は重症頭部外傷を念頭にヘリ要請を行います.

ドクターヘリは10分少々でランデブーポイント上空に到着,救急車もタイミング良くランデブーポイントへ滑り込んできます.

車内で外傷初期診療開始.意識は清明ですが,確かに呂律が回らず,おかしな印象があります.麻痺を含め他の異常所見なし.やはり頭蓋内に何かあるのでしょうか?外傷事案でもあり,迷わずTECCMCへヘリ搬送です.

☆ドクターヘリ5件目 重症頭部外傷(施設間搬送)

この北近畿エリアで24時間,脳外科対応可能な施設はTECCMCのみ.TECCMCには外傷のみならず,脳外科関係の症例も集まってきます.だから頭部外傷対応はTECCMCの得意分野でもあります.

そんなことを話していると,他院から重症頭部外傷の転医依頼です.日勤責任者の松井先生は状況を聞き,ドクターヘリでのお迎えが適切と判断します.数分後,転医依頼元病院を管轄する消防本部からのヘリ要請がかかります.

ドクターヘリは10分もかからず指定のランデブーポイントへ.陸送であれば1時間以上かかる地域です.救急車もちょうど到着します.

三浦先生は救急車内で外傷初期診療を始め,小林は紹介元の先生から画像を含め申し送りを受けます.急性硬膜下血腫,midline shiftあり,瞳孔不同あり・・・非常に切迫した状況で,減圧開頭まで急を要します.1分1秒が惜しい.「ヘリに速やかに搬入,機内で麻酔をして気管挿管を行うよ!」

ランデブーポイント滞在時間は5分弱.エンジンスタートと同時に機内では治療が開始されます.バイタルチェックしつつ鎮静,鎮痛薬,筋弛緩薬の投与.その間に小林,三浦先生は気管挿管の準備.飛行中はシートベルト着用が原則のため,喉頭鏡を用いた通常の喉頭展開は非常に困難です.また2次性脳損傷を防ぐため,一発で気管挿管を決める必要があります.このような場合,我々の選択は・・・Airwayscope.病院前救急診療におけるこのデバイスの有用性は千里救命時代から報告してきました.三浦先生は飛行中にもかかわらず,15秒程度で挿管を完了させます.


挿管の確認は聴診で・・・しかし飛行中は騒音のため聴診は不可能です.Airwayscopeは直視下に気管チューブの声門通過を確認出来るので,聴診無くとも安心出来ます.しかし,ちゃんとした確認をするに越したことはありません.そこで,機内での確認は,カプノグラフ.呼気中の二酸化炭素をモニタするため,チューブが気管内になければきちんとした波形が出ません.モニタすると・・・


問題のない波形を確認します.これで2次性脳損傷を防ぎつつ,いつでも手術対応可能な状況になりました.

TECCMC到着,direct CTにて病変の状況を確認,搬入30分後には手術室へと搬入されました.

救急車内で安定化してヘリ搬入することがドクターヘリの原則.しかし,搬送時間を最短にする必要がある場合,機内で出来ることを熟知しているチームだからこそ行える治療方法もあります.経験を積むこと,数をこなすこと,それが「質」の維持と向上をもたらします.



今日は,病院前救急診療における我々の取り組みの一部を紹介させていただきました.