2011年5月31日火曜日

5月31日 中学生のトライヤルウイーク

やっと天候回復.なんだか久しぶりの太陽のような感じもします.

今日はTECCMCに近隣中学から「トライヤルウイーク」の学生さん3名が来られました.第1班なので,後日第2班も来られます.将来就きたい,目指したい職業をちょっとだけ体験,見学するというものです.良い学校教育ですね.

学生さん達は午後から来られました.ちょっと緊張?そんな中,まずは体を動かしてもらいましょう.BLSの体験,実習です.前山先生の巧妙な語り口と話術であっという間に緊張もほぐれ,「わかりますか〜?」「すいません,119番とAED!」「1,2,3・・・30,圧迫交代して〜」と楽しそうに実習をしてもらいますた.もちろんAEDも体験.中学生,さすがに飲み込みも早い!これなら実際も人を助けられるでしょう.

そしてその後はお待ちかねの「ドクターヘリ見学」.気分は山Pかガッキーか.ヘリポートまでの通路もドキドキ,ワクワク.そしていよいよヘリポートへ.

「スゲ−!」「カッコイイ〜〜〜〜」「ちっちゃい」など初めて目の当たりにしたドクターヘリを見て,口々に感想が飛び出してきます.


運航管理室から機長さんも出てきてくれて,説明.機内に乗り込んで記念写真.目が輝いてますね〜 (^_^).「ドクターヘリは現場に医者を運ぶための道具ですよ.患者さんの搬送は二の次.」良く覚えておいてくださいね.そして,将来は一緒に働けると良いですね.待ってます!


今日は比較的穏やかに時間が流れましたが,ヘリ出動は2件.現場気管挿管での安定化や初期診断.本日も有効にヘリが活用された1日でした.


今月のドクターヘリ
 要請:102件
 出動:91件(内,施設間搬送9件)

要請の少ない地域がまだあります.アンダートリアージは「罪」です.現場から変わっていく組織もあるでしょう.我々も精進します.患者さんにとって良いようにドクターヘリ,医療スタッフを使ってください.引き続きよろしくお願い申し上げます.


センター長のつぶやき・・・
 火曜日は会議だらけで嫌いだ〜.ちょっとすっきり.



2011年5月30日月曜日

5月28日〜30日 天気は大荒れ

台風2号の影響で北近畿の天気は大荒れです.29日から30日にかけ,大雨から円山川が増水し豊岡市内は一部水没.上空から見ると,水田が水浸しになっています.今年は何だか自然がおかしい.



28日は幸部先生,岡本先生,林田看護師がヘリ番.3件出動です.

☆ドクターヘリ1件目 意識障害

覚知同時要請です.結果的に院外心肺停止の患者さんでオートパルスを装着しTECCMC搬入です.医療介入は最速です.

☆ドクターヘリ2件目 意識障害

幸いにも状態は安定しておられ,近隣の病院へ搬送させていただきました.応需いただきありがとうございました.

☆ドクターヘリ3件目 小児の意識障害

天候がいよいよ怪しい・・・そんな中の要請です.雲の隙間をぬって海上へ.海上であれば障害物もなく,安全に飛行可能.しかし,海岸線から内陸へは霧と雨雲のため入れません.後ろ髪を引かれる思いでの悪天候・出動後キャンセルです.ドクターカーの運航範囲内であれば同時出動可能だったのですが・・・大変申し訳ありませんでした.


29日は小林,長嶺先生,米田看護師がヘリ番,番匠谷先生がカー番です.

☆ドクターヘリ&カー1件目 滑落外傷

搬送時間が1時間をこえる地域からのTECCMC搬入依頼です.日勤責任者の岡先生は全身観察の結果を聞き,医師の管理下に早期に患者さんをおくのが良いと判断します(本当は現場から要請して欲しかったです.).

ドクターヘリ出動.しかし,天候は最悪.雨も風も強くなっていきます.安全を考慮した飛行経路でランデブーポイントへ向かいます.離陸直後,これは最悪ランデブーポイントへ到着出来ない可能性もあると判断,迷わず運航管理室へ「ドクターカーも同時に出動させてください.」と指示します.

番匠谷先生はカーの助手席に乗り込み出動.空と陸.どちらかが確実に患者さんと接触出来れば良いのです.救急医療は常にセーフティネットを張っておく必要があります.たとえヘリ,カーどちらかが結果的に無駄足になっても,その過程は無駄ではないのです.医師が現場にたどりつけないこと,こちらの方が問題です.

結果的にヘリが安全にランデブーポイントへ到着,カーはこの時点で反転引き上げ.ヘリの医療スタッフは救急車内で外傷初期診療を開始し,速やかにTECCMCへ搬送です.

☆ドクターカー2件目 胸痛

天候不良にてヘリの離陸は不可能な状態になってしまいました.世間が平和であることを祈っておりましたが,ホットラインが鳴ります.

間髪入れず,「カーで対応します.」

番匠谷先生,そしてヘリ番であった長嶺先生,米田看護師がドクターカー・フォレスターに乗り込み現場へ.患者さんのご自宅で診療開始.覚知同時要請は最速の診療開始となります.

そして,救急車に皆で乗り込みTECCMCへ.


30日は小林,前山先生,林看護師がヘリ番です.相変わらずの天候.特に午前中はひどい.しかし,そんな中・・・

☆ドクターヘリ1件目 呼びかけに反応なし

覚知同時要請です.ランデブーポイントまで1分少々の場所.これであれば飛行に問題はありません.霧と雨と風の中を向かいます.と消防から無線が,「ドクターヘリキャンセル.」

救急隊現着時にヘリが必要なければ遠慮無くキャンセル.これがヘリ・カー事業の当たり前の考え方です.救急隊現着後要請でキャンセルなしと覚知同時要請で不要時キャンセル.どちらが患者さんへの医師接触が早くて,患者さんのためになるでしょうか.この考え方がしっかり出来ている消防とその地域では,確実に救命率が向上しています.

☆ドクターヘリ2件目 交通外傷

夕方に要請です.これまた的確な要請.すでに天候も回復傾向にあります.

JA822H・ドクターヘリは数分でランデブーポイントへ着陸,程なく搬入してきた救急車とドッキング,外傷初期診療開始です.

呼吸,循環は保たれてますが,腹腔内臓器損傷を強く疑います.診療開始して10分以内に離陸.これがTECCMC'sドクターヘリの鉄則.根治的治療はセンター内でしか出来ません.

TECCMCへ搬入,そしてtrauma CT.予想通り!・・・「岡先生,幸部先生,緊急開腹!」

術後は経過良好です.


天候は自然が相手.ヘリは万能のシステムではありません.それをいかに補完していくか.基地病院に与えられた大きな大きな命題です.

2011年5月27日金曜日

5月26日・27日 1日の出来事

救命救急センター,特に初療ではビックリすることを時々経験します.


悪寒,戦慄でWALK INを自家用車で受診された患者さん.診察室に入りしばらくすると,意識消失,モニターでは「Torsade de Pointes」・・・! 除細動と1サイクルのCPRでROSC.これが夜勤の始まり,その夜はどうなることかと・・・救急車だけが重症,救急ではないことを研修医君は身を以て体験しました.


今,初期研修医1年目の先生方が一緒に当直をしてくれてます.問診表を見て,教科書で予習して,診察して,救急医にコンサルトして.時間はかかりますが,それが成長につながるのです.若いうちに多くのことを経験して学んで下さい.そういえば,昨日は縫合処置を初期研修医の先生と一緒にやりました.局所麻酔,糸の選択,縫い方,機会結び.10数年前,先輩達に教えられたように.大丈夫,すぐに上手に出来るようになりますよ (^_^).








26日のドクターヘリ担当は小林,三浦先生,清水看護師.27日は山邊先生,松井先生,藤巻看護師でした.


☆26日のドクターヘリ


2件要請の2件出動.


1件目は脳血管障害疑いの意識障害.嘔吐,舌根沈下で気道の異常あり,ランデブーポイントで気管挿管,機内で降圧しながら地域の拠点病院へ搬送させていただきました.


2件目は縊頸.ランデブーポイントでALSを行い,ヘリにて地域の拠点病院へ搬送させていただきました.


最速の医療介入開始と地域拠点病院までの搬送時間短縮.そして,ランデブーポイントで救急隊は引き継ぎが終了するため,そのままその救急隊が管轄する地域で活動可能となります.これがドクターヘリの住民の方に対する恩恵の1つになります.救命率,後遺症軽減だけがヘリ,カーを評価する因子ではありません.


2件ともに同時要請で非常に適切にヘリを使用していただけました.


☆27日のドクターヘリ


2件要請の2件出動.


1件目は覚知同時要請.「意識なし.」との情報です.医療スタッフはランデブーポイントから支援車で現場投入.適切な治療を救急隊と共に行う事が出来ましたが,医療スタッフの間でちょっとした反省点が露出,センター帰投後すぐに振り返り.次に活かすことが大切です.


2件目は救急隊現着後の要請です.非常に的確なヘリ要請.覚知内容は「フラフラする.」でしたが,救急隊現着時の心電図は徐脈.そしてショック状態.現場から適切な医療機関までは30分以上かかります.であればヘリと10分少々でドッキングし,現場から治療を開始しつつ病院搬送することが患者さんにとっては1番です.ランデブーポイントでドッキング,適切な治療を行いつつ,かかりつけの病院へ搬送です.


本日もご協力いただきました関係者の皆様,ありがとうございました.








今日の画像.本文とはまったく関係のない画像です.

救命活動を見つめる小学生.まさに生きた「命の授業」です.
将来のフライトドクター,フライトナース,機長,整備士?

さらにおまけです.今日のフライトナース.

フライトドクターは患者さんと一緒に機内へ.
フライトナースは資機材管理と撤収.重たいッス by 清水

 患者さんの搬送後,待ちの一コマ.
コンタクトが!いえいえ,四つ葉のクローバー見つけました.by 安積

台風接近中.週末の天気が心配です.











2011年5月25日水曜日

5月25日 本日もお疲れさまです

月末が近づいています.医療クラークの糸賀さんと小林は勤務表作成に頭を悩ましております.良く学び(働き),良く休む(遊ぶ?).皆にonとoffをしっかりとってもらいたいなあ・・・現実は・・・(苦笑).6勤2連休(1休みのこともあり),変則2交代制が原則のTECCMCです.

本文とは無関係な画像:前山医師,空を見つめる・・・飛んでみる?

 本文とは無関係な画像:清水看護師,海を眺める・・・泳いでみる??




本日のドクターヘリは小林,三浦先生,安積看護師が担当です.

☆ドクターヘリ1件目 意識障害(CO2ナルコーシス?)

覚知同時要請です.「男性,呼びかけても反応なし,呼吸あり」といった内容です.現場はそこそこ奥まったところ.上空から救急車を探します.

「救急車発見!」ランデブーポイントからも距離があります.患者さんのご自宅もわかりました.幸いな事にご自宅の目の前に休耕田があるではないですか!上空から安全を確認,許可をもらって慎重に着陸です.地方ならではの現場直近.


着陸後はご自宅までうかがい診療開始です.最速の医療介入開始.

自宅で初期治療を行いつつ,既往を確認,陸路ではちょっと離れたかかりつけの病院へヘリ搬送とします.ヘリならものの5分.搬送も速やかです.かかりつけ病院近くのランデブーポイントに着陸,地元の消防に協力いただき患者さんを三浦先生同乗で搬送としました.

いつもご支援,ご協力をいただきありがとうございます.

三浦先生をのどかに待つJA822H

☆ドクターヘリ2件目 胸部不快感

覚知同時要請です.「女性の胸痛.」これは心大血管の疾患か!?準備しつつランデブーポイントへ向かいます.

数分でランデブーポイントへ着陸,救急車の到着を待ちます.いつも風光明媚な所です.


程なく救急車到着,車内で診療開始です.症状を確認,12誘導心電図,心エコーなどを速やかに行います.幸い虚血性心疾患を示唆する所見も症状もありません.心カテーテル検査,治療も今のところ必要なしと判断し,地元の病院へ三浦先生同乗で救急車搬送としました.

現場での医療トリアージ,重要な我々の任務です.重症でなくて幸いでした.

☆ドクターヘリ3件目と4件目 出血性ショックと熱中症

午前中に2件出動しましたが,午後からは初療もドクターヘリも穏やかな時間が流れます.我々が平和なことは良い事です.

と,思っていた矢先要請PHSが一斉に鳴ります.救急隊現着後の要請のようです.重症と判断されたのでしょう.急ぎましょう.

ヘリは晴天の但馬の空へ舞い上がります.医療無線から患者さんの情報が聞こえます.「草刈り機での切創.顔面蒼白.」 出血性ショックが疑われます.加圧バッグを輸液に付け現場へ.

ランデブーポイント着陸.すでに救急車は到着しています.車内に乗り込み診療開始.衣類にかなりの血がついています.幸い患者さんの状態は少し安定したようです.では輸液路を確保し搬送を・・・と思った瞬間に機長さんが救急車に飛び込んできます.「○○から要請!場所は△△!!どうします!?」もちろん応需しますが,ミッション方法は??

「輸液は機内で飛行中に確保します.速やかに患者さんを機内へ入れましょう.搬送先はTECCMC.そしてTECCMCへ向かう途中に△△があるので,そこで三浦先生,安積看護師をおろします.再離陸しTECCMCへこの患者さんを搬入,ヘリポートで引き継ぎを行った後にtouch & goで△△へピックアップに向かいます.」

ヘリは離陸,と同時に三浦先生は18Gでルート確保.創部は圧迫止血されています.これで一安心.さて,4件目のランデブーポイントへ向かいましょう!

まさに2 flight doctor制の威力発揮です.そして何よりも4件目の要請が覚知同時要請(意識なし),ランデブーポイントに着陸した時点でまだ救急車が到着していません.救急車の到着とその後の診察時間でちょうどヘリがピストン搬送で帰ってきました.同時要請だから患者さんを無駄に待たせることなく,ミッションが進みます.消防の意識の高さの現れです.

4件目の患者さんは,最高気温が30℃近くなった中,電気毛布をかぶって寝られてたそうです.体温も高く,状況から熱中症が疑われます.幸い輸液にて意識レベルは改善です.皆様,熱中症の季節になってきました.どうぞご自愛ください.そしてピストン搬送でTECCMC搬入です.

☆ドクターヘリ5件目 頭部外傷,酩酊状態

ヘリの最終要請時刻が迫る中,覚知同時要請です.「路上で人が倒れてる.」との情報です.現場は救急隊,支援隊が到着するのに時間を要する場所.でもドクターヘリはひとっ飛び,上空から現場を発見!まさにランデブーポイントのすぐ近くです.

ランデブーポイントの安全を上空から確認し,慎重に着陸です.砂塵もそんなに舞い上がりません.そしてその後は,恒例の現場までダッシュ!200〜300mは走ったでしょうか.先着するかと思いきや,直前にで救急車に追い越されました.車には勝てません・・・

そして,現場で活動開始.内因性?外因性?判断に迷いますが,倒れていた場所などから外因性の対応を行います.


初期評価,全身観察,primary survey,全脊柱固定.救急車内で輸液路確保とFAST.ランデブーポイントでヘリに患者さんを乗せ換え,TECCMCへひとっ飛びです.

推定医療介入短縮時間30分以上.まさに救急医療は現場から始まる!です.




本日は5件要請の5件出動でした.ドクターヘリを有効活用していただき,ありがとうございました.









2011年5月24日火曜日

5月24日 通算1000件目の出動

ここ最近,救命救急センターのICU, HCUはほぼ満床状態が続いています.それでも不応需が出せないTECCMCです(救命救急センターなら当たり前か).

今日は朝から快晴.ドクターヘリの担当は岡先生,番匠谷先生,森田看護師です.午前中は初療もドクターヘリも穏やかな時間が流れておりましたが,お昼前から怒濤の要請と出動となりました.

結局,9件要請のドクターヘリ7件出動.1件は重複事案にてヘリ出動キャンセル(本当に申し訳ありません),1件は重複事案でヘリ対応が不可能,しかし事案の内容から早期に医療介入した方が良いと判断しドクターカーで対応いたしました(ドクターカーは小林が急遽出動).

☆ドクターヘリ事案

1件目:意識障害・DKA(TECCMCへ)
ランデブーポイントでドッキング.
通常のミッション.

2件目:呼吸困難(TECCMCへ)
ランデブーポイントでドッキング.
通常のミッション.散水,お世話になりました.

3件目:ショック(直近の救命救急センターへ)
ランデブーポイントでドッキング.
通常のミッション.



4件目:施設間搬送(TECCMC→地元病院へ)
ここで岡先生は初の「置き去り」.着陸と同時に4件目要請!
岡先生は自力でTECCMCへ.お疲れ様.

5件目:火炎熱傷(同じ府県の救命救急センターへ)
工場火災,労災です.ランデブーポイントでドッキング.
生活圏,距離などを考え救命救急センターの選定を行いました.

6件目:脳卒中疑い(結果的には低血糖)(地元の病院へ)
ランデブーポイントでドッキング.
活動中に7件目の要請!

7件目:交通外傷,複数傷病者事案(同じ府県の拠点病院へ)
ランデブーポイントでドッキング.
現場トリアージ.最優先される患者さんをヘリ搬送.

☆ドクターカー

1件目:痙攣重責状態(TECCMCへ)
へり重複にてドクターカー対応.
ドッキングポイントにて診療開始.
痙攣重責は1分でも早く痙攣を止めることが大切です.
ナイスミッションでした.




ところで,あまり気にはしていませんでしたが,本日通算1000件出動となったようです.運航開始から1年と1ヶ月と1週間.海外では年間出動件数1000件は当たり前.医師を現場に早期に運び,早期に医療が開始出来るツールのドクターヘリ.北近畿ではもっともっと活用していただければと思います.何はともあれ,事故もなく安全に1000という数字を通過したことに少々安堵しております.

お仕事終了後に記録を1枚.




次世代のフライトドクター達が確実に育っております.今後は指導者(ファーストドクター)としてのさらなる成長を大いに期待しております.関係者の皆様,今後もあたたかいご支援とご指導のほど,よろしくお願い申し上げます.





2011年5月23日月曜日

5月23日 DEEP PEOPLE (NHK)

本日,NHKのDEEP PEOPLEという番組に小林が出演させていただきました.お題は「フライトドクター」.日本医科大学千葉北総病院救命救急センター・松本先生,長崎医療センター救命救急センター・高山先生とご一緒させていただいております.

一般の方向けに上手く編集がされておりましたが,「医師が現場に早期に出向く意義」が伝わったでしょうか?NHKのHPに番組の内容が記載されております.是非ご覧ください(下の写真をクリックしてもリンク先に飛びます).

収録場所の東京ヘリポート・朝日航洋さんの格納庫

またこの番組の中で紹介させていただきました「キーワード方式」の内容を含めた,当方ドクターヘリの要請基準を下記にアップいたします.ご参照ください.また当ドクターヘリの運航要領はこちらからダウンロード可能です.



119番通報の内容で,キーワードが必ずしも言われるわけではありません.通報内容から病態を予測し,キーワードの裏に隠れている疾病,外傷などを察知してヘリ要請をかける能力が求められます.また基地病院と各消防がキーワード方式の意味を十分に理解しあえなければ,本当のキーワード方式は完成いたしません.

患者評価,病院選定などにおけるアンダートリアージは「罪」です.アンダートリアージをなくすことこそが,病院前救急診療・救護では大切なのです.

DEEP PEOPLE,収録に約4時間かかりました.本編で使用されたのはほんの一部分だけです.収録現場ではもっともっと熱く,深い議論が取り交わされたことを追記しておきます.



2011年5月9日月曜日

5月9日 救急隊がすくい上げた命

ドクターヘリ,ドクターカーは消防の要請があって初めて出動します.言ってみれば消防の意識の高さがその地域住民を救うことになるのです.今日はまさにそんな事案.

今日のドクターヘリ担当は小林,長嶺先生,林看護師です.1件要請の1件出動でしたが,非常に中身の濃い,後味の良い,いわゆる劇的な救命例でした.

午前中,消防署に「胸が痛い」と駆け込んできた方がおられました.救命士は直感で「やばい!」と察知,すぐに本署にドクターヘリ要請をかけ,救急車内に収容し処置を開始し始めます.冷汗著明,すぐにレベルダウン,不穏へ.モニターは徐脈になりST↑↑.救命士はパドルを装着しつつBVMでの補助換気に備えます.そしてランデブーポイントへ救急車を走らせ始めます.

そのころセンターは回診も終わり,指示出しの最中.パソコンの前に座っていたヘリスタッフの一斉PHSが鳴ります.3階の病棟から階段を駆け下り,ヘリポートまでダッシュ!JA822Hドクターヘリは但馬の空へ舞い上がります.

「50代,男性.胸痛,徐脈,ショック.」との情報.機内では慌ただしく準備が始まります.経皮ペーシング,気管挿管,輸液などなど.あっという間にランデブーポイントへ.救急車はすでに到着しています.

車内へ飛び込み診療開始.救命士は補助換気中.的確に情報を伝えてくれます.脈拍30〜40,STは関西で言うところの「ババ上がり」.冷汗で全身びっしょり.急性冠症候群に伴う徐脈,ショックです.一気に治療開始.小林はルート確保し,硫酸アトロピン投与しつつ経皮ペーシング.同時に長嶺先生は鎮静下に気管挿管.2人の救急医の治療を1人の林看護師がテキパキと救命士さんを上手く使いながらサポートします.

「良し,ペーシングにのった!搬送!!」 治療開始から機内収容まで10分.まあまあの早さですが,なにより功を奏したのは,患者さんが消防署に駆け込んで,治療が開始されるまで12分.通常の陸送であれば治療開始まで30分以上はかかっているでしょう.おそらくは陸送であれば心停止になっていると思われます.

ペーシングしつつTECCMCへ.待ち構えていた救急医,循環器医により大動脈解離を否定した後に心臓カテーテル検査.ヘリポートからのdirect心カテです.

この事案は全ての連鎖が上手くつながって後遺症なく救命できた事案ですが,その連鎖のスイッチを的確に躊躇することなく入れた救命士さんに「いいね!」1億回です!





そして,そんな中センターICUでも緊急開腹術.番匠谷先生,岡先生が執刀,麻酔は前山先生です.


皆様,お疲れ様でした.




2011年5月8日日曜日

5月8日 救急医の判断

5月7日のドクターヘリは山邊先生,松井先生,森田看護師が担当.5件出動(現場3件,施設間搬送1件,離陸後キャンセル1件)でした.

5月8日のドクターヘリは岡先生,番匠谷先生,林田看護師が担当.4件出動(現場4件)でした.4件ともに外因性.暖かくなると外因性が増えてきます.そして,今回は最後の2件を紹介します.

☆ドクターヘリ 交通外傷2名傷病者

乗用車が10m転落,ドクターヘリ要請です.傷病者は2名.救急隊によりすでに救助済み.ドクターヘリはランデブーポイントで救急車とドッキングします.

岡先生,番匠谷先生が各々の患者さんを診察,重症度,緊急度を判断し,搬送順位を決定します.重症度が高いと判断した患者さんをまずは番匠谷先生がヘリ搬送,そして残りの患者さんは岡先生同乗のもと救急車でTECCMCへ向かって走ります.一人目の患者さんをTECCMCへ搬入,ヘリポートで患者さんの引き継ぎを行い,ヘリはそのまま二人目の患者さんを迎えに離陸します.そして,二人目の患者さんもピックアップしヘリ搬送,いわゆるピストン搬送です.これにより早期医療介入のみならず,搬送時間も短縮され,根治的治療開始までの時間も短縮されます.ただ,搬送順位の決定,いわゆるトリアージは難しいことも多々あり,救急医の経験,実力に左右される部分もあります.今回はまさにこの「判断」が功を奏した事案でした.

二人目を迎えにヘリが飛んでいる間,一人目の患者さんの初療が行われます.現場で重症と判断された方です.輸液を行いつつ,循環を保ちながらCT検査へ直入・・・すると左腎損傷,造影剤の血管外漏出あり!後腹膜によりパッキングされ,循環が何とか保たれているようです.この状況なら血管内治療で止血出来ると判断します.夜勤明けで院外をフラフラしていた小林も呼び戻されました.

二人目の搬送でヘリが戻ってきました.こちらは呼吸,循環も落ち着いています.気になるのは上肢のしびれ.画像検索にうつります.

二人目の診療を行いつつ,一人目の血管内治療の準備に取りかかります.ところが,「血圧低下してきました!!」 岡先生が駆け込んできます.緊急輸血も開始しています.これは輸液,輸血に反応しない出血性ショック,このままではdeadly triadから致死的状況になってしまいます.手術室へ行く時間も惜しい.「初療室開腹の準備して!」

麻酔科標榜医の前山先生がRSIで速やかに気管挿管と静脈麻酔の全身麻酔を担当,番匠谷先生,岡先生,小林で初療室開腹です.番匠谷先生が開腹,岡先生は横隔膜直下で腹部大動脈を用手圧迫,その間に番匠谷先生と小林が下行結腸を後腹膜から起こし,左腎門部を露出,クランプです.腎実質は完全に離断していますが,これで出血制御は完了.循環は立ち上がります.型どおりに腎臓摘出術を行い,後腹膜および脾損傷からの出血はガーゼパッキングを行う,いわゆるダメージコントロール手術です.腹壁を1層に閉腹,明日,second lookとします.

ICUへ入室,あとはICU担当の山邊先生に全身管理を任せます.もうこれで大丈夫.二人目の患者さんは中心性頸髄損傷.こちらも救命救急センターへ入院です.




消防が速やかにヘリ要請を行い,現場に救急医が出向く.そしてそこで判断を下す.救命の連鎖が上手く輪になる地域になりました.



芝生のグラウンド.住民にもヘリにも優しいランデブーポイントです.

 救急車内で診療中.

 救急車到着までは住民の方に見学会.「乗ってみる?」

 さて,ピストン搬送!

本文とは関係ありませんが,画像も載せてみました.



2011年5月6日金曜日

5月6日 デビューその3

本日は前山先生のドクターヘリデビュー日.小林と共にon the job training開始です.


☆ドクターヘリ1件目 急性硬膜下出血・脳内出血


前山先生のデビューフライトは施設間搬送です.他院からTECCMCへ.


依頼元病院の直近ランデブーポイントに着陸して,患者さんの到着を待ちます.やや緊張した面持ちの前山先生とベテラン・清水フライトナース.



待つこと10分.救急車がやってきます.前山先生は前ドアから,小林は後ろドアから救急車内へ.と同時に小林は依頼元病院の先生から申し送りを受けます.その間に前山先生は速やかにABCDの評価・・・TECCMCへ急いだ方が良さそうです.

患者さんを速やかにヘリへ搬入,そしてエンジンスタートと同時に薬剤投与,そして離陸と共に十分な鎮静下にエアウエイスコープを使用して気管挿管です.ヘリ内での処置により約10分の搬送短縮.確かな技術と確実な道具があればこそのミッションです.

無事,ファーストフライトを終えた前山先生は安堵・・・する間もなく次の要請です.

☆ドクターヘリ2件目 急性冠症候群(疑い)・心不全

今後は開業医さんから,消防を通じての施設間搬送の依頼です.搬送先はフライトドクターの現場判断として,ランデブーポイントへ向かいます.

緊急の心カテが必要か?緊急の治療が必要か??現場で瞬時に判断しなければなりません.

ランデブーポイントへ着陸.同時に救急車も到着.救急車内へ乗り込んで診療開始です.気道は開通,呼吸はやや速いですが,酸素化は問題なし.循環は・・・末梢に冷感あり,冷汗もあります.12誘導心電図をチェック.虚血を示唆する所見はありません.どうやら基礎にある心疾患が影響しているようです.今後のことを考え,直近の拠点病院にお願いします.

快く応需してくださり,ヘリで搬送先病院の近くまで搬送,そこから救急車に前山先生同乗で搬送です.

前山先生は他院搬送も経験しました.そして・・・

☆ドクターヘリ3件目 バイク事故・顔面外傷

2件目の搬送途中に3件目の要請です.2件目の患者さんを前山先生と共に降ろし,救急車へ乗せ換えます.と同時にドクターヘリは小林,清水看護師を乗せ,離陸,3件目に向かいます.2 flight doctor制の強み発揮です.

10分でランデブーポイントへ到着.



その3分後に救急車も到着です.救急覚知から25分で外傷初期診療開始.病院搬入まで40〜50分かかる地域です.推定医療介入短縮時間は約40分.これも消防が覚知同時要請を徹底している賜です.

救急車内の患者さんは顔面外傷,特に上顎,下顎に損傷を負っており,口腔内に血液貯留が!このままでは気道の問題が生じます.吸引,ガーゼ圧迫などで何とか止血を得,ヘリへ搬入します.ここまで7分.そして,一番近い救命救急センターへヘリ搬送です.

ちなみにこのミッションの間,前山先生は2件目の搬送先病院から自力でTECCMCまで帰ることになっています(前山先生の談:「置き去りミッションのマニュアルを読んでおいて良かったです.」).

☆ドクターヘリ4件目 意識障害

無事,TECCMCへたどり着いた前山先生.やっと安堵・・・とはいかず,4件目の要請です.

救急隊現着後の要請.覚知内容ではキーワードに引っかからなかったようです.ヘリは7分でランデブーポイントへ到着.救急車とドッキングします.

救急車内で,救急隊の情報を聞きながら診療を行います.気道開通,呼吸問題なし,循環も安定していますが,意識は清明ではありません.低血糖なし.麻痺もはっきりしません.現場ではこれ以上,診断をつけようもありませんし,その必要もありません.脳血管障害,代謝障害などを疑い,TECCMCへヘリ搬送です.

画像,採血検査の結果,やはり思った通りの結果となりました.

☆ドクターヘリ5件目 交通外傷

怒濤の4件出動を終え,一段落していたところに要請です.覚知同時要請.ヘリ離陸と同時に無線で要請内容を確認します.「軽乗用車の事故.閉じ込め.意識なし.」

出来るだけ早い医療介入が必要そうです.ヘリはすぐに現場上空へ到達,直近で降りられる場所がないか探します.



あります!近くの会社の駐車場.支援隊が現場から走ってきてくれます.安全を確保,上空からも安全を確認,着陸です.そして医療スタッフはいつものように,ヘルメットを着用し10kg近い資機材を担いで現場までダッシュ!!

(救出後の車両写真です)


医療スタッフが現場に着くと,まだ患者さんは救助中.もうすぐ車外救出が完了するような状況です.小林,前山先生,清水看護師は救出後の診療が可能な場所へ移動します.そして,そこへ救急隊,救助隊が患者さんをそこへ搬出します.事故現場で外傷初期診療開始.救助事案であっても受傷から20分で医療介入が実現しています.患者さんは「不穏」,これはやばい兆候かもしれません.気道,呼吸,循環が安定していることを確認,速やかな搬送にうつります.全脊柱固定し,土手を舟形担架で担ぎ上げ,救急車に収容し,直近のヘリ臨時着陸場まで移動,そしてヘリ搬入.外傷初期診療開始からヘリ搬入まで10分.非常に速い現場活動が実現しています.

消防との顔の見える関係が,このような現場活動を実現させることをあらためて実感しました.

初めての事故現場を体験した前山先生は,「メッチャ速かったッス!これが病院前救急診療なんですね!!この地域で患者さんが助かる理由がわかりました.」 これに満足せず,まだまだ進化していきましょう.




なかなか充実したヘリ番でした.




院内では岡先生が三浦先生に心囊ドレナージを指導.ICUもなかなかバタバタしています.





2011年5月5日木曜日

5月3日〜5日 ゴールデンウイークですね

世間はゴールデンウイーク.連日80〜100人を超える救急の患者さん.休日診療所をまずは受診してくださいと掲示しているのですが・・・救命救急センターは重症者,救急車優先なので,WALK INの患者さんは待ち時間が2時間を超えます.トリアージナースが大活躍ですが,やはり大変ですね.

3日のドクターヘリは山邊先生,幸部先生,安積看護師が担当.5件出動(3件現場,2件施設間).

4日のドクターヘリは小林,倉橋先生,濱看護師が担当.1件現場出動.この日は山岳救助事案で兵庫県消防防災ヘリが飛んできました.

5日のドクターヘリは岡先生,岡本先生,米田看護師が担当.2件現場出動.

同時要請されるべき事案はきちんと要請され,救急隊現着後要請もプロトコールに準じ適切に要請されています.消防力の高さの証明です.

時には警察に現場まで運んでもらうこともあります.中から後ろドアが開かず勝手に降りられません(苦笑)が,協力に大感謝です.本文と画像は無関係です.



2011年5月2日月曜日

5月2日 デビューその2

本日は長嶺先生のドクターヘリデビュー日.小林と共にon the job training開始です.


☆ドクターヘリ1件目 トラクターの転落・頭部外傷

回診中,その時がやってきました.一斉PHSが鳴ります.長嶺先生の初出動です.3階のICUから階段でヘリポートまでダッシュ!ドクターヘリに乗り込みます.

シートベルト装着,ヘッドセット着用.JA822Hドクターヘリは離陸します.医療無線で傷病者情報を聞きます.「ドクターヘリ豊岡1から兵庫豊岡.傷病者情報をお願いします.」今日は小林が無線から実例を提示します.TECCMC's Doctor Heli.はこの時点で初めて傷病者情報を知らされます.

「年齢不詳.男性.トラクターごと転落し下敷き.」覚知同時要請.情報は以上です.この情報を元に輸液,エコー,必要機材の準備を機内で行います.

15分後,上空から現場状況を確認し,ヘリは山間の谷間に着陸.覚知同時要請なので,救急隊がまだ現場活動中です.救急車を待たせないこと,早期医療介入では大切なこと.だから覚知同時要請が大切なのです.こんなこともon the job trainingで感じ取ってもらいます.

程なく救急車がランデブーポイントに到着.救急車内で外傷初期診療開始です.長嶺先生の初病院前救急診療.狭い車内でどう位置取りをし,どう動くか.最低限しなければならないこと,そして現場・ランデブーポイント滞在時間を最短にするためにはどうするか,体で覚えます.

気道開通,呼吸は問題なし,循環も安定,しかし意識レベルはE3V4M6,頭部に外傷があります.FAST negative. 頭部外傷が疑われます.搬送先は一番近い救命救急センターへヘリ搬送です.陸送なら50分近くかかりますが,ヘリだと10分もかかりません.速やかにヘリ機内へ患者さんを収容し離陸です.ランデブーポイント滞在時間は10分.TECCMC's Doctor Heli.の標準です.

無事,搬送先の先生に引き継ぎ,申し送りを終え,帰投です.気がつけば長嶺先生は汗だくでした.初フライト,お疲れ様でした.

☆ドクターヘリ2件目 脳梗塞

初フライトを終え,ホッと一息の長嶺先生.しかし,帰投中も油断出来ないのがドクターヘリ.無線で次事案の要請が伝えられます.ヘリはそのまま指定されたランデブーポイントへ目標地点を変更,全速で向かいます.

覚知同時要請.脳卒中は発症から治療開始までの時間が後遺症に直結します.だから搬送時間を短縮出来るドクターヘリが有効なのです.その有効性を引き出すポイントはキーワード方式による覚知同時要請.そして,現場の医療トリアージによる病院選定,これが大切です.

数分後,ランデブーポイントに着陸,救急車の到着を待って診療開始.「CPSS 1項目要請,発症時間は・・・」救急隊の申し送りも的確です.脳卒中は間違いなし.ABCが問題なければ搬送優先です.速やかにヘリへ搬入しTECCMCへ.

ヘリポートからのdirect CT.やはり予想通りの結果が,発症から30分以内につきました.




今日は長嶺先生がデビューしました.これから前山先生,池田先生と現場に出ます.消防の皆様,何卒よろしくお願い申し上げます.

2011年5月1日日曜日

5月1日 電子カルテシステム入れ替え

ゴールデンウイーク,TECCMCが大繁盛の時期に電子カルテシステムの入れ替えが行われました.もちろん,救命救急センターは大混乱.大きなトラブルなく診療が終わった事が幸いです.いくつかの病院で電子カルテに関わってきましたが,なぜ日本の大手メーカーは導入前後で態度が変わるのでしょうか??困ったもんです.

本日のドクターヘリは施設間搬送の1件のみの出動でした.混乱した救急外来,神様は見てるのでしょうね.

コンピュータは使うもの,使われないようにしなければ.

本日は緊急手術が夕方から2件.岡先生,小林で担当しました.

格納庫とドクターヘリ.敷地内にヘリが常時駐機出来る安心感と強み (^_^)v